Vol.13 中庭のある家(アルジェリア・インベルベル)

Vol.13 中庭のある家(アルジェリア・インベルベル)

砂漠の街にとって水は命

アルジェリアは、北は地中海、南はアフリカ、東は中東・アラブ世界にかこまれた地域です。国名の語源は「島々」を意味するアラビア語「ジャジーラ」に、英語でtheを意味する「アル」をつけたものだといわれています。

アルジェリアの気候は、アトラス山脈をさかいに大きく2つにわかれます。アトラス山脈の北はあたたかい地中海性気候(ちちゅうかいせいきこう)で冬には雨も降ります。いっぽうアトラス山脈の南は広大なサハラ砂漠で、多くの地域で1年の降水量が10〜20mm程度です。東京の1年間の降水量が1,000~2,000mm※ですから、とても雨の少ない地域であることがわかります。

※気象庁 東京 降水量の月合計値(mm)年の値を参照

フォガラの概念図

フォガラの概念図

こうした雨の降らない土地での生活で重要なのは、なんといっても水です。サハラ砂漠での生活に使う水は地下水がたよりになります。アルジェリアの多くの地域には「フォガラ」と呼ばれる地下水道があり、水を集落まで運んでいます。アトラス山脈から流れ出た水がつくりだした「扇状地(せんじょうち)」は水をふくんだ土がたまった土地で、そこにたくわえられた地下水を利用するために、縦穴を繰り返し掘ってフォガラと呼ばれる地下水道を引くのです。フォガラはサハラ砂漠に住む人びとの生活をささえています。

地下水道「フォガラ」の役割

サハラ砂漠の真ん中、タデマイト高原の南にインベルベルという村があります。インは「泉」という意味を持つアラビア語。18世紀中頃にこの地にやってきた聖人が杖をついた場所に泉を発見し、その近くにベルベルの木が生えていたことから「ベルベルの泉=インベルベル」と名づけられたといわれています。

フォガラは、カナート(アラビア語)、カレーズ(イラン)、カンアルチン(中国)などとも呼ばれて乾燥地に広く見られ、インベルベルのフォガラは、水源からの全長がわずか400〜500mという短いもので、特徴がわかりやすいです。水源からタテ井戸の底をつないだ地下水路で村まで地下水を導いていますので、水場には冷たい水が顔を出します。インベルベルのタテ井戸の深さは、上の深いところで4〜5mほどあり、間隔は2,3mですが、井戸を掘る作業はかなり危険です。掘る作業をする人はハシゴなしで、足がかりをつくりながら人がひとりちょうど入れる大きさの穴を降りていき、底に達するとヨコ穴を掘ります。落下や崩落(ほうらく)、さらには酸素不足の危険があるためろうそくを灯(とも)して、ろうそくが消えそうになったら止めて、次のタテ穴を掘るのです。命がけで水を確保しているのです。

タデマイト高原の地下水を引くフォガラ

タデマイト高原の地下水を引くフォガラ。
連続する穴の底をつないで地下の水道が集落、農園へ水を導く

インベルベルの配置

インベルベルの配置

第1の水場での水汲み風景

第1の水場での水汲み風景

第2の水場での動物に水を与える風景

第2の水場での動物に
水を与える風景

土塀に囲まれた農園(ブスターン)

土塀に囲まれた農園
(ブスターン)

第1の水場では、料理や顔を洗うための水を汲みます。1日に使うことができる水の量はかぎられています。たとえば身じたくをするときは、コップ1杯の水で、歯を磨き、目の周りと手や口を洗います。家にお風呂はなく、体を拭く程度です。次の水場では女性たちが洗たくをしたり、子どもたちが水遊びをします。そこからさらに下流には動物に水を与えるための水場があり、最後に集落の人びとが食べる穀物や野菜を栽培している農園(ブスターン)へと流れ込んでいく仕組みになっています。貴重な水を誰がどれだけ使っていいかというのは、古老(ころう)と呼ばれる年長の人が決めることになっていて、農園への水量を測るのには特別な道具を使い、台帳に記された量を配分して水争いが起きないように管理しているのです。

日本では水が豊かなためたくさん使える

インベルベルでは貴重な水を大切に使う。
乾いた砂で手を洗う。

水に代わる、豊富な砂

インベルベルでは、貴重な水は少しずつしか使えない代わりに、砂漠の砂は豊富に存在します。乾燥する地域ならではの清潔感があり、たとえばトイレは中庭の角に一段高く壁で囲まれていて、ヤシの木を2本渡してあり、その上で用を足し、乾燥したら農園の肥料にします。空気がかなり乾燥しているため、雑菌がわいたり匂いが気になることはなく、そのままでも不潔感はまったくありません。熱く乾いた砂で手もお尻も拭きます。

また食品は乾燥によってほとんど腐らないため、ドライフルーツのように長期間の保存が効きます。

日本のように湿度が高い地域では、トイレや食品における防菌や防カビの対策が必要ですが、それが不要なのです。

日干しレンガによる家屋づくり

当然のことながら、極端に雨の少ない気候は、家の素材やつくりかた、生活スタイルにも大きな影響を与えています。インベルベルの家は日干しレンガでつくられていますが、この日干しレンガの材料は、土に水と干し草やロバのおしっこを混ぜて練(ね)ったもの。それを木の型枠に入れ、しばらく放置し、ある程度乾燥したら型枠から抜きだします。両面を乾燥させるためにそれをタテにしておいて、完全に乾いたらひとつひとつ積み上げていきます。

アルジェリアの中でも北部のアルジェなどでは、雨への対策として屋根や壁に白い漆喰(しっくい)などを塗り、防水性や耐水性を高めてありますが、インベルベルなど雨がほとんど降らない砂漠の家では、漆喰(しっくい)などの仕上げもほとんどありません。ヒビが入って崩れたら、また日干しレンガで補強します。レンガの材料はタダで手に入るため、定期的に壁をメンテナンスすることで問題なく対処できます。こうした家づくりは一見すると原始的なものに見えますが、砂漠という厳しい環境で限られた資源を最大限にいかした手法であり、とても合理的な方法だといえます。

日干しレンガを干しているところ

日干しレンガを干しているところ

日干しレンガの壁

日干しレンガの壁

中庭型住居の誕生

インベルベルの集落では、こうしてつくられた家屋(かおく)が密集するかたちで大きなひとつの家(住居群)ができています。家族や親せきなどがまとまって集落をつくっていることが多く、壁をひとつ超えたむこう側の家に独立した子どもとその家族が住んでいるというケースも多いです。

これらの家々はとても複雑に入りくんでいます。家の外壁には窓がなく、部屋は暗くて閉鎖的です。入口の扉を開けると窓のないうす暗い部屋があり、次に客人をもてなすための部屋や寝室などがあり、広場のような屋根のない中庭がつながっています。このような外壁に囲まれた空間の中心に中庭がある住居は、中庭型住居(なかにわがたじゅうきょ)と呼ばれています。

入り口から居室群を通って中庭に至る

入り口から居室群を通って中庭に至る

中庭を中心にした生活スタイル

中庭には多くのメリットがあります。まず風が入らないので砂ぼこりが家の内部に入るのを防ぎます。インベルベルの中庭は、およそ3.5m四方で3m近い高さの壁に囲まれているため、中庭には常に日かげができています。一日中、中庭のどこかが日かげであり、暗い部屋の中には熱気が入りにくいので、乾燥地では風通しがなくても“日かげ”があれば暑さをやわらげることができるのです。

中庭は約3m×4m 壁の高さは3m近い

中庭は約3m×4m 壁の高さは3m近い

中庭は居間のようなスペース

中庭は居間のようなスペース

さらには古代より現在にいたるまで多くの戦争を経験してきたこの土地ならではの機能として、複雑に入り組んだ街のつくりは、外敵が侵入しにくく防御がしやすく城塞(じょうさい)の役割も果たしてきたと考えられています。実際にアルジェの戦いで有名なアルジェリア戦争の際にフランス軍が苦戦を強いられた原因のひとつが、ゲリラ兵が壁や屋根を伝って逃げてしまうことだったといわれています。

そして、中庭がはたすもうひとつの役割。それは憩いとコミュニケーションの場であるということです。

サハラ中部 アハガル地方の中庭住居

サハラ中部 アハガル地方の中庭住居

アウレフオアシスの中庭住居の屋上

アウレフオアシスの中庭住居の屋上

インベルベルでは、ほとんど雨が降らないため、中庭にはいつも人びとが集まり、団らんの部屋代わりになります。宗教上の理由で外を出歩けない女性でも中庭は気軽に出られる外の空間ですし、なかには女性だけしか入れない中庭も存在しています。人びとは水場でくみ上げた水と農園で育てた小麦を使ってクスクスと呼ばれる料理をつくり、中庭に集まっては食事やお茶をしながら語らいを楽しみます。客人が来れば中庭でもてなします。また砂漠では電灯のあかりも雨雲もなく空気が乾燥していて星がよく見えるので、暑い時期の夜には中庭や屋上に寝そべって満天の星空を見上げて過ごすこともできます。

気候と身体と心が調和する住まい

インベルベルのような古く小さな集落から、ダマスカスやアルジェのような豊かな大都市まで、地域の特徴や集落の大きさや住む人の数、建物の種類などによって多少の違いはありますが、中庭のある家では、できるだけ水や緑、日陰をつくり、コミュニケーションの場にしています。人びとが信仰するイスラム教の聖典コーランにも、水が緑を育て、緑が日陰をつくる「天国のイメージ」があります。日本では水と緑が豊かで、季節ごとの気候やそこから得られる自然の恵みを十分に得ることができます。いっぽう、彼らは水が貴重な乾燥した地域の中で、かぎられた資源をいかに有効に使うかということに、とても知恵をしぼって生きてきたといえます。

「乾燥」という砂漠エリアならではの気候が、家のつくりかたや住む人の暮らしぶり、さらには人びとの考え方にも影響を与えてきました。その結果うみだされた「中庭型住居での生活」。それは長年にわたって、彼らの衣食住に調和をもたらす中心的役割を果たしてきたのでしょう。

樹木や噴水が豊かな屋外生活を演出する中庭

樹木や噴水が豊かな屋外生活を演出する中庭

POINT

  • 貴重な井戸水をわけあったり、たっぷりある砂でつくった日干しレンガで家をたてたり、資源を上手に使ってるんだね。
  • 熱い砂漠で心地よく過ごすために、涼しい日陰をうみだす中庭を家の真ん中につくっているんだね。
  • 食べ物が腐りにくく、トイレもすぐに乾いてしまうなど、乾燥しているからこそのメリットもあるんだね。

Vol13: 『アラブのすまい』小堀巌・八木幸二 著 「(協)オアシス集落」 1982年


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