Special Interview スペシャルインタビュー サステナブルな人 ハーブ研究家 ベニシア・スタンリー・スミスさん

写真:梶山 正

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サステナブルな人 スペシャルインタビュー ベニシア・スタンリー・スミスさん インタビュー ~前編 京都・大原の古民家で自然と寄り添いながら暮らす~

「自分のファミリーを守ること、それがサステナブルな社会へつながる」

2017.09.28

イギリス貴族の家に生まれ、1971年に来日、96年に京都・大原の古民家に移住してハーブガーデンをつくり始めたハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさん。今回は、京都・大原の山里で自然と共に暮らすベニシアさんの生き方や考え方について、お話を伺いました。

幼い頃に夢見た田舎家暮らし

―― ベニシアさんが京都・大原の古民家での暮らしを選んだのはなぜですか?

幼い頃、母の実家であるイギリス中北部のダービーシャー州の田園地帯にあるケドルストン・ホールによく遊びに行っていました。そこはインド総督だった曾祖父の屋敷で、18世紀に建てられた石造りの大邸宅です。マーブルホール(大理石の間)、ボールルーム(舞踏室)、ステートルーム(儀式用大広間)など大きな部屋がいくつもありました。この屋敷が建てられたジョージ王朝時代には、100室以上の部屋を使っていたといわれています。

弟と一緒に敷地内にある湖の島で隠れ家をつくったり、草地を駆けめぐったりして遊びました。ただ、それはすべて敷地内でのこと。外に出ることは許されませんでした。だからでしょうか。屋敷の外がどんなところなのか、ずっと知りたかったのです。

ある日わたしは、こっそり門を抜け出して敷地の外へ出ました。村へ続く道は静まりかえり、小鳥のさえずりしか聞こえません。高くのびたサンザシの生け垣と緑のツタには、野バラや黒イチゴが実っています。道端にはたくさんの野草が咲いていました。角を曲がると、白壁の田舎家が見えてきました。各家には小さな切妻窓があり、窓の下にはゼラニウムやパンジーを植えた箱が置かれています。田舎家は、ケドルストン・ホールの私の寝室と同じくらいの大きさで、玄関先に小さな庭があります。壁を伝うツルバラがきれいに咲いています。ちょうど、二人の女の子が石蹴りをして遊んでいました。母親らしき女性が、外に干していた洗濯物を取り入れています。笑い声を上げて遊ぶ彼女たちの姿がとても幸せそうで、知らず知らずのうちに涙が出てきました。私の暮らす世界では、こんなに温かく、親密な空気を感じたことがなかったからです。

運命的に巡り合った大原の古民家。窓を開け放った和室には爽やかな風が通り抜け、心地よい涼を運んでくれます。「初めてこの家を見たとき、ここでなら子どもの頃に憧れていた暮らしができると思ったのです」とベニシアさんは話します。

その家族を眺めながら、決意しました。大きくなったら、どこかに小さな田舎家を見つけて夫と子どもと一緒に、こんな風に庭に野草や野菜を植えて暮らしたいと。

あれから40年。その理想をここ大原で見つけました。私はこの家を初めて見たとき、「一生、ここで生きていきたい」と強く感じたのです。

築100年の古民家で暮らすことは伝統を引き継ぐこと

―― 築100年という古民家での暮らしはいかがですか。

長い間使われていなかった家は、かび臭く、ほこりも積もり、蜘蛛の巣も張っていました。それをなるべくお金をかけずに自分たちで修理し、暮らし始めました。今も家の造りは当時とほとんど変わっていません。ふすまは表具屋さんに修理してもらい、畳は移り住んで6回目のお正月を迎える前に新調しました。畳を新しくするときに「天然素材のものは、畑で腐らせて堆肥にしたり、燃やして灰を畑にまくことができますが、化学素材が入っているものは業者に頼んで焼却炉で燃やしてもらいます」という畳屋さんの話を聞き、すぐに天然素材に決めました。何かを買う場合、使えなくなって捨てるときのことも考えて選びたいと思っています。

古い家を守っていくのは大変です。傷んだ屋根瓦を取り替えるのも、大変な費用がかかりました。表具屋さんも畳屋さんも、使う人が少なくなってきたためにどんどん減っています。こうした日本の伝統的な暮らしを支える職人さんたちの仕事を守っていくことも重要なのではないかと思います。我が家にも欄間がありますが、欄間を手がけることができる職人さんは、数えるほどしかいないそうです。

イギリスでは家族のヒストリーを守ることを大切にしますが、日本ではイギリスほどのこだわりがないように感じます。素晴らしい伝統文化がたくさんあるのに、それは少しもったいないような気がします。

縁側の目の前にも庭が広がる、里山の古民家。

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