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「家康、江戸を建てる」の著者、門井慶喜さんに聞く、家康が行ったサステナブルなまちづくり【後編】
~デキる男、徳川家康の仕事力~

前編:家康の先見性とプロデュース力

小説家 門井慶喜さん

2017.02.06

門井 慶喜(かどい よしのぶ) さん

小説家

1971年、群馬県生まれ。同志社大学文学部卒(日本史専攻)。2003年に『キッドナッパーズ』で第42 回オール讀物推理新人賞を受賞。2015年『東京帝大叡古教授』が第153 回直木賞候補となり、続く16年『家康、江戸を建てる』も第155回直木賞候補となる。
2016年12月新刊『屋根をかける人』を上梓。

著書のご紹介

門井慶喜著書「家康、江戸を建てる」

『家康、江戸を建てる』

江戸を創建するという日本史上最大のプロジェクトやそこに関わる人々を描き、新たな視点から家康像に迫った話題作。2016年直木賞候補作。

未来を見据え、社会整備を行った都市計画プロデューサー家康

―― 門井さんは家康のどのような部分にフォーカスして書かれたのですか?

戦に明け暮れていたころの軍人・家康は、この本では描きませんでした。彼は、当時の年齢でいえば余生ともいえる50代前後から頭をぱっと切り替えた人なんですね。これからは、誰かの領土をとるのではなくて人々のために便利なものを提供する。例えば、都市でいえば機能を提供することにしたのです。

―― 戦国時代と安土桃山時代を経て、江戸時代はずいぶんと長く平和な時代が続きましたよね。サステナブルな社会の実現のヒントがありそうです。

家康は、未来永劫、徳川が支配するにはどうしたらよいかと未来を見据え、戦いによるのではなく社会整備による方が早道だと判断しています。『家康、江戸を建てる』で描いた、江戸城の石垣を積む、利根川を曲げるなどは各大名に普請させ、お金を使わせています。

3代将軍家光においては、とても有能な人でしたから参勤交代の制度をつくり、天下普請で地方の大名にどんどんお金を使わせました。そういったこともあり、官僚制度やインフラが固まったのはだいたい家光の頃ではないでしょうか。

―― 各地方の大名に戦をさせるのではなく、お金を使わせることで戦意を喪失させるように仕向ける、ということでしょうか?

そうですね。江戸時代には、江戸の町に各藩の藩邸があちこちにありましたが、お正月は門松の大きさを競ったそうなんです。それを楽しみに見て回る人たちも少なくはなかったようです。

例えば、土佐藩であれば門松にみかんを飾るなど特色を出し、工夫をこらしていたようです。まあ、いわばどうでもよいことなのですが、本当の戦をするよりもいいですよね。平和な世の中にするには、一見、くだらないことで争わせるということも必要です。

お正月は、各藩邸の門松を見学して批評する、江戸の町人たち。そんな声を聞いてか聞かずしてか、各藩、競うように毎年の門松づくりに力を入れていた。

戦国時代を過ぎ、平和な時代に不要となった天守閣を設けるなど、モニュメンタルなものをつくることで民衆の心を支配するという手法もとられた。

―― 執筆をされて、家康のあり方に現代人が学べることはあると思いましたか?

執筆をして、家康が現場を大切にする人間ということがわかりました。我々は昔の人は人命軽視のようなイメージを持ちがちですが、決してそんなことはなくて人命を大切にしているんですね。これは、この時代は家康だけでなくどこの藩でも、現場を大切にした人が最後は勝ちますね。そういう印象があります。

―― 家康は、ずいぶんフランクに技術者たちと話をしていたように本では描かれていますが。

すぐれた技術者とトップが話すということについては、想像で描いた部分はあるのですが、まんざら根拠のない想像ではありません。官僚制度が完成するのが家光の時代ですから、家康の時代はそういったことがあっても不思議はないのではないかと思います。

江戸時代初期の数々のエピソードも、トップダウンでということではなく現場の都合を整理していったらこうなったという面が大きいように感じました。家康の時代ではなく家光の時代に官僚システムができたというのも下からの仕事が積み上がってできたものですから、逆にいえばそれだけシステムが完成するのに時間がかかってしまったといえます。

江戸時代も今も、まちづくりは後世に残るサステナブルな事業

―― 『家康、江戸を建てる』で描いた5つのプロジェクト、「利根川の水路の変更」「金貨の造幣」「水道の整備」「江戸城の石垣造成」「天守閣の建築」は、多世代に渡って携わっていますよね。

工事が大規模だと1世代では終わらないのは、現代でも同様ではないでしょうか。規模が大きければ、関わった人が死んでしまったあとでも建物は残るというサステナブルな事業なわけですから、必然的に次世代を考えることになるのではないかと思います。

―― 未来をみつめながらものを作っていくという目線はどの時代も同じ、普遍的なものなのでしょうか。

大規模建築と比べるとおこがましいのですが、自分でさえも1冊の本を出したということは、僕が死んだあとでも文章は残っていくということを意識します。子どもやひょっとしたら孫までも読むかもしれないということは、いつも頭のどこかにあって、想像するのは嬉しくもあり、どこか怖いと思うところもあります。

時を超えたとしても、本質的に同じようなことを土木や建設に関わる方も考えていらっしゃるのではないかと想像します。

―― 江戸時代には、未来のまちづくりのヒントになりそうなことはありますか?

三代家光の頃の江戸は、冬になると人口が激減します。なぜかというと、冬は火事が多く、危ないので家族を実家に帰らせるんです。これは面白いですよね。もしかすると、現代人は、住むところ、働くところに関してずっと同じところにいなければと固定観念を持っているかもしれません。

現在では、地方と都市、2拠点で暮らす人たちも増えているようですが、それは江戸の時代からなされていたことでもあります。直接的に影響されたというわけではないでしょうが、そういった歴史に未来のヒントがある場合もありますね。

文/朝比奈千鶴 イラスト/平野秀明

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