大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

COLUMN コラム サステナブルな暮らし

写真提供:松下慶太

暮らし

サステナブルな暮らし コラム

ワーケーション実践のススメ
〜仕事時間をより豊かにする非日常の力〜

2020.08.07

働き方が多様化し、新型コロナウイルス感染拡大防止のための在宅ワークが一般化する昨今、オフィスから離れた場所で働くリモートワークやテレワークとともに広がりをみせているのが、休暇を取りながら旅先で働く「ワーケーション」です。有給休暇取得率・取得日数が世界でも最下位(※1)の日本で、ワーケーションという働き方はどのように受け入れられるのか、ワーケーションがもたらすメリットとはどのようなものなのか。モバイルメディア時代のワークスタイルを研究する関西大学の松下慶太教授にお話を伺いました。

※1 出典 : 世界最大級の総合旅行サイト エクスペディア・ジャパンによる有給休暇についての国際比較。世界19カ国18歳以上の有職者男女11,217名を対象とした2019年の調査結果

お話を伺った方

松下慶太 教授

関西大学社会学部教授。専門はメディア論、若者論、コミュニケーション・デザイン。近年はコワーキング・スペース(※2)、ワーケーションなどモバイルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイルを研究。

※2 コワーキング・スペース 異なる職業や所属先を持つ人びとが集まりオフィス環境をシェアする場。交流や協働が生まれる効果が期待される。

ワーケーションとは?

ワーケーション(Workation)とは、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語であり、『休暇を取りながら仕事をすること』を意味します。この言葉が日本で注目され始めたのは2017〜2018年頃。企業の働き方改革の観点だけではなく、地方創生の新たな方法としても期待をされています。そんな中、松下教授はワーケーションを捉える2つの視点に着目しています。

一つは「Work in Vacation」=休暇中に仕事をすること。
休暇を取りたいのに仕事が終わらない時、または仕事をしたいのに労務管理上休まなければならない時、仕事をする前提で休暇を取得し、時間と場所の制限がない環境でストレスを和らげながら仕事を進めることができます。

もう一つは「Vacation as Work」=仕事としての休暇です。
企業のチーム合宿や研修などで地方や観光地へ出向き、その土地について見聞を広めるなどのアクティビティを取り入れて、普段の勤務時間ではできない体験を仕事に生かします。

働く時間に非日常を取り入れるワーケーションは、ビジネスパーソンの必須スキルになる

ワーケーションを理解し活用する上では、「休暇時間」と「業務時間」をキッパリ分ける時間感覚を持つだけではなく、どのような環境で仕事をするかという「場所」へのこだわりが鍵となるそうです。

「ワーケーションの場合、オフィス以外であればどこでもいいというわけではなく、Good comfortable place、『気持ちの良い場所』で仕事をすることが大事です。別の言い方をすると、自分にとってその場所が“非日常”であるかどうか。この点がテレワークやリモートワークとの違いです。“非日常”は人によって様々で、都市部で働く方にとっては地方にいることが非日常であったり、地方で働く方にとっては都市部にいることが非日常的な環境であったりします。非日常をどのように自分の仕事に組み込み、生かしていくかは、今後のビジネスパーソンの必須スキルになっていくと思います。」

ワーケーション(Workation)の語源であるバケーション(Vacation)の語感から、ワーケーションの場所として自然豊かなリゾート地を連想する方も多いと思いますが、Vacationはもともとラテン語のvacareが由来で「からっぽ」の意味です。
すなわちVacationは普段の当たり前やしがらみを「からっぽ」にするということです。

こうした開放的な非日常の環境は、働き手にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

「人生100年時代とも言われているなか、自身の心と体の健康、仕事へのモチベーションや会社に対するエンゲージメントの向上、刺激や新たな学びによってインスピレーションを受けること、さらに自身の能力開発や学習などに集中できる没入体験などが期待できます。」

非日常である、奄美大島の空の下で仕事をする松下教授
写真提供:松下慶太

ワーケーションが企業のNew Normalスタイルをつくる

企業にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の影響で身近になったリモートワーク、テレワークについては、生産性の向上、ワークライフバランスの実現、オフィスコストの削減など数々のメリットが語られています。

一方のワーケーションについては、必ずしも数字で測れることだけが重要なわけではないと松下教授は話します。

「ワーケーションを導入したからといって仕事の生産性が上がる確証はありません。でも、下がらないなら、それで十分素晴らしいのではないでしょうか。オフィスでの生産性と、海を見ながらビーチで働いた場合の生産性が変わらないなら、デメリットなく心理的幸福度が上がるメリットを享受できるわけですから。」

また、企業には生産性や業績以外の部分で、次のようにワーケーションを導入するメリットがあります。

一つ目が、業務プロセスと労務管理の改善や、それに伴うオフィスのアップデートを考えるきっかけとなること。ワーケーションの導入は、従業員が出社しなくても仕事がまわる業務プロセスと労務管理の設計を促します。これは、仕事のAI化などの変化に柔軟に対応できる体制づくりに繋がります。また、あえて出社して集まりたくなるようなオフィスへの進化も後押しします。

二つ目に挙げられるのが、健康経営への貢献です。従業員のモチベーションやエンゲージメントを向上させる材料になるほか、Work in Vacationの文化をつくることで有給休暇取得率の向上が期待できます。

三つ目が新規事業の創発です。非日常的で刺激にあふれた環境は、新しいビジネスの種を生む突破口になることが考えられます。また、ワーケーションの受け入れ先の地域との連携が、アイデア創出の原動力になることも期待できます。さらに、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」の達成においても可能性を秘めています。

最後に、自由で多様で創造的な働き方を企業文化にすることで、就業人口が減り続ける未来において人材確保に貢献することが予測されます。

「すでに、大手企業数社がテスト運用に乗り出しています。ある企業では労務管理システム上で従業員の働く場所の選択肢に『自宅』『サテライトオフィス』などと並べて『ワーケーション』を加えました。申請などは必要なく、選べばいいだけのシンプルでわかりやすい方法で心理的ハードルを下げ、従業員が活用しやすいシステムにしています。」

「中小企業の好事例としては、福岡県のIT企業が挙げられます。世界各地で働いている社員を選抜し、研修の一環として、パートナーシップを組んでいる沖縄県宮古島と北海道東川町へ派遣しています。会社の金銭的援助もある環境下で、社員は滞在期間中仕事をしながら地域の方々と交流をもち、日頃の業務を見つめなおしたり新たな学びを得たりしています。」

北海道東川町でのワーケーション。滞在中、現地の外国人留学生に授業を行う非日常の環境をつくり、従業員のスキルアップを図る
写真提供:松下慶太

ワーケーションで、地域の新たな魅力が現れる

ワーケーションは、地方創生の取り組みとして地方自治体の注目も集めています。先進県の和歌山県と長野県は2019年、日本テレワーク協会とともに「ワーケーション全国フォーラム」を開催。両県の知事が、ワーケーション推進に関する全国的な自治体間連合「ワーケーション全国自治体協議会」(通称:ワーケーション・アライアンス・ジャパン(WAJ))の設立に向けた協力確認書に署名しました。2020年7月時点で「ワーケーション全国自治体協議会」には91の自治体が賛同しています。

「ワーケーションは、1泊、2泊の旅行とは違います。短期滞在では行かないところにも長期滞在だったら行ってみたくなることがある。そのニーズに対して、地域側がどんなカルチャーやストーリーをみせることができるのか。ワーケーション先として活用されるためには、旅行者のための観光資源にとどまらず、地域にあるリソースを棚卸しして、魅力を再構成する必要があります。」

和歌山県田辺市味光路。ローカルでディープな街並みも魅力の一つとなり、築90年の古民家をリノベーションしたゲストハウスでは地域交流が生まれている。
写真提供:松下慶太

旅人と地域の新しい関わり方を演出する「町に開かれたリビングルーム」
写真提供:the CUE

「日本のワーケーションは、海外と違って地域との繋がりに着目した展開を見せていることが特徴です。海外のワーケーションは、デジタルノマドワーカーがコワーキングスペースでワーカー同士のコミュニティを作ったり滞在中の宿で知り合いを増やしたりするのが主流で、地域住民と接する機会はあまりありません。」

ノマドワーカーが集うバリ島のコワーキングスペース
写真提供:松下慶太

日本の場合は地域もワーカーも互いに交流を望む傾向があるそう。地域にとってワーケーションは、観光振興とは別の発想で地域を捉え直すことによってワーカーとの絆を深め、定期的に地域に通ったりふるさと納税などを通して地域の経済に貢献する関係人口を増やすチャンスなのです。

ワーケーションは働きがいと経済成長の伸び代

ここまでにお伝えしてきたように、ワーケーションは、人々の働きがいや企業・地域の成長を後押しする様々な可能性を秘めています。この可能性を生かすには、働き手、企業、地域それぞれが既存の考え方や手段を進化させるマインドを持つことが大切だと松下教授は話します。

「企業が社員の休暇取得を嫌々認めたり、地域の方がワーカーを仕方なく受け入れたりする『寛容』ではなく、ワーケーションという新しい概念、を働き手・企業・地域の持続可能性を高める変化の起点と捉える『歓待』の姿勢が大事です。そして、企業・地域・ワーカーにとってSustainable(持続可能か)、Stimulate(刺激になっているか)、Story(共感できるものか)、という『3つのS』をつくっていくことがワーケーションを展開していく上でのポイントになります。」

「働く」と「休む」の「時間」と「場所」。これらの境界線を柔軟に行き来するワーケーションという概念は、当たり前が変わり続ける予測不可能な時代をサステナブルに、そしてより良く生きる、新しい方法を示しているようです。

新たなワークスタイルは社員と会社の多様性を広げる

お話を伺った方

鳥生由起江

大和ハウス工業株式会社
サステナビリティ企画部
人権・インクルージョングループ長

大和ハウス工業では、東京23区内で勤務する社員約3,000名が一斉にテレワークを実施する「2020年夏季スーパーテレワーク」を計画していました。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け本プロジェクトは一時中断していますが、 その中にはまさに、全国27カ所に展開するリゾートホテル「DAIWA ROYAL HOTEL」を活用したワーケーションの実証実験も予定されていました。

「社員が健康を大切にし働きがいを感じ、より良いアウトプットを生み出し成果につなげていくためには、効率性や広い意味での生産性を高めていく必要があります。そんな中でテレワークの導入により時間と場所から社員を解放することはとても効果的です。しかし、それには丁寧に制度やハードを設計していく必要があると感じています。ワーケーションには、リフレッシュ、リラクゼーションのほかにも個人の内面の多様性を豊かにする効果を期待しています。個人が多様な経験をしたり、仕事から離れている時間をしっかり作ったりするほうが発想が豊かになり、新しいアイデアを生み出せたりします。また、先の見えない予測不可能な時代と言われる中で、多様な人財であること、様々な違った経験をしていることは組織力の向上につながります。その多様性をつくる方法のひとつが、働く場所の選択肢を豊富にすることだと思っています。全国に展開しているホテルやオフィス、森林住宅地など、当社やグループの経営資産を活用し、新しい働き方の実践の一つとして今後もアイデアを打ち出していきたいと思っています。」

こうした取り組みに至るまでには、テレワークが子育てや介護などと仕事の両立に悩む職場の解決策として機能したことが数々のトライアルで実証されてきた経緯があります。

「自宅でテレワークができれば、通勤時間が無くなった分、保育園のお迎えの時間まで1時間多く働けて、子育てとの両立中もキャリアをあきらめないで済む。同僚へのしわ寄せも最小限にできる。本人からも上司からも有効な手段としての評価を得られました。また、多くの社員が介護に対して不安を抱えているという社内アンケート結果もあり、離職防止の観点からもテレワークへの期待は高まっています。個々の事情や制約があっても、働き続けられ社会に貢献できる将来像は、社員の安心感や働きがいに繋がります。」

同時に、ワーケーションやテレワークを有効に機能させるには、働くことの本質に向き合うことが不可欠だと鳥生は話します。

「仕事を通して自分が生み出す付加価値=評価が明確であれば、お互い目の届かないところにいても、リゾートでリラックスしながら仕事をしても、信頼関係は揺るがない。そのためには、人ではなく役職に職務内容がひもづく『ジョブ型雇用』など会社と社員の関係を再構築する必要があると感じます。離れた場所で働いていても共通の目標と価値観でつながり、社員一人ひとりが自分らしさをのびのびと発揮し高い付加価値を生み出していく。そういった組織像とワーケ―ションという働き方がシンクロします。」

ワーケーションという新しい働き方とともに、仕事の概念や働く個人の多様性、企業や地域との関係性が大きく変わる兆しをお届けしました。2020年の今、私たちは、個人、企業、地域それぞれが眠っている可能性を開花させ、サステナブルな経済成長を加速させるターニングポイントに立っているのかもしれません。

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