Special Interview スペシャルインタビュー サステナブルな人 写真家 小松 義夫 さん

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サステナブルな人 スペシャルインタビュー

小松義夫さんとサステナブルな世界の家
~写真家 小松義夫さん~

2019.03.28

世界各地に出向き、さまざまな住まいと、そこに暮らす人々の姿を写真に収めつづけている写真家の小松義夫さん。土地ごとに材料や形も異なる多様な家と出会う中で、「伝統的な住まいのほとんどがサステナブル」だと実感したといいます。世界の家を撮り歩く小松さんに、サステナブルな家や暮らし、生き方についてお話を伺いました。

小松義夫(こまつ・よしお)

写真家。東京綜合写真専門学校に学び、写真スタジオ勤務を経て、1971年よりフリーランスとして活動をスタート。世界各地へ取材に赴く中、1981年にはヒマラヤK2の登山隊にムービーカメラマンとして参加した経験を持つ。1980年代から、ライフワークともいえる「世界の住まい・暮らし」をテーマに取材活動を展開。取材国は140カ国に及び、現在も多くの時間を海外取材に充てる。著作に、『地球生活記』『地球人記』『世界あちこちゆかいな家めぐり』(いずれも福音館書店)など。日本写真家協会会員

土の家、竹かごの家、海藻屋根の家・・・、世界はサステナブルな家にあふれている

―― なぜ世界の家を撮り歩くようになったのですか?

私が世界のさまざまな住まいや暮らしを撮り歩くようになったのは、1981年にカメラマンとして同行した早稲田大学K2登山隊への参加がきっかけでした。その時は、空気が極めて薄い5400メートルという高地で約2カ月過ごしたのですが、体力的にも精神的にもキツい日々でした。

撮影を終え、少しずつ高度を下げていくに従い、空気を存分に吸うことができる幸せを実感しました。そして、岩と雪の世界から再び緑のある“きらきらとした世界”へと戻ってきて、久しぶりに緑にふれた時、そのうれしさで身体がしびれたんです。

その瞬間、人間という生き物は地球の表面にあるほんの薄い空気の層に、身を寄せ合って生きているんだということを実感しました。そう考えたら、人の暮らしや、暮らしを包む住まいがとても愛おしく大切に思えてきて、それ以来、世界中を巡って撮り続けています。

人々の住まいや暮らしは、どの地域であってもとてもおもしろく興味深いです。その姿をできるだけありのまま写真に収めたいという思いから、私は訪ねた土地の空気にいち早くなじむよう心がけています。それがうまくできなければ、写真もよそよそしいものになってしまいます。

ふだん東京で暮らしている私は、東京のノイズを身にまとっています。取材地を訪ねる時はそれをいったん落とすことが大事。たとえば、村に入る際もいきなり大型車で乗りつけるのではなく、ロバに揺られて入れば向こうも自然なかたちで迎えてくれます。

いったん受け入れてもらえれば、たとえ言葉が通じなくても目と目で話ができるようになり、村人たちも日常の姿を見せてくれます。

―― 小松さんが世界で出会ったサステナブルな家を紹介してください。

サステナブルな家は、その土地の材料を使っていたり、その土地の形状をそのまま活用していたりして、いわばその土地から「生えている」ような、自然と一体化した印象を与える家が多いですね。

中でも典型的なのが、「土の家」です。土団子を作って重ねたり、土レンガや土団子を積み上げたり、あるいは日本の土壁のように塗り固めたりと、作り方こそさまざまですが土の家は世界中にあります。

たとえばアフリカのブルキナファソ南部にあるカッセーナ族では、天日干しした土レンガを積み上げ、その表面に女性が泥を塗って家に仕上げます。すべてそこにある土を材料にしています。たとえ家が壊れても、壊れた材料に水を加えて練れば家を修理する材料として再び使え、産業廃棄物を生まないという、まさにサステナブルな家です。

©Yoshio Komatsu

ブルキナファソ南部、ティエベレ村にあるカッセーナ族の家。円い形や模様は女性が手で描いており、女性の心の内を表している

写真提供:小松義夫

材料だけではありません。材料を作る工程にもサステナブルな要素があります。レンガを天日干しするのにもちゃんと理由があるのです。

耐久性だけを考えれば焼レンガの方がよいかもしれませんが、レンガ作りに薪を使えば煮炊きをする薪が不足してしまい、森を壊すことになりかねない。だから天日干しにするのです。目先のメリットだけではなく持続性を考える。その点でもサステナブルなのです。

―― なるほど。サステナブルな家のありようは、そこに住む人々をとりまく環境と深く結びついているのですね。

その通りです。もう一例挙げると、エチオピアのチェンチャという村には、私が「竹かごの家」と呼んでいるサステナブルな家があります。村では古くからこの地に生える竹を用いて家を造っています。材料である竹は成長が早く、わずか3年で活用可能となるため、この土地に負荷をかけないサステナブルな素材といえます。

竹でできた家は15年も使うと下の方がシロアリに喰われ始めます。そうすると、みんなで「よいしょ」と家を持ち上げて、別のところへ移動してまたそこで暮らし始めます。たとえシロアリに喰われても、竹を使って修繕するので何の問題もありません。そんなことをしながら、一世代で使い切って終わる住まいは、環境と自然に結びついた発想でもあり、サステナブルな家といえます。

©Yoshio Komatsu

エチオピア・チェンチャの「竹かごの家」。骨組みは竹で、外壁は家の背後にあるエンセテという植物の葉で覆われている

写真提供:小松義夫

この村ではお墓も竹でできており、竹のお墓が崩れて自然に還るころには、人々の記憶からもなくなっていくとされています。この村では代々そうやって、暮らすこと、すなわち生きることと生を終えることが、自然とつながりながら受け継がれてきたのです。

―― 「土の家」に「竹かごの家」。サステナブルな家にも、その土地によってさまざまなタイプがあるものですね。

世界の家は本当におもしろいですよ。もう一つ実にユニークな家を紹介しましょう。デンマークのレス島にある「海藻屋根の家」です。

©Yoshio Komatsu

デンマークのレス島にある「海藻屋根の家」。与えられた環境から得た材料で造られたユニークな家だ

写真提供:小松義夫

この島には白樺の木しか生えておらず、住まい造りに向いた建築材料がありません。そこで、嵐になると細長い海藻がたくさん海岸に打ち寄せられるため、それを干して材料にし、屋根を葺いているのです。また、家の骨組みには島に流れ着いた難破船の材木を利用しているというとても変わった家です。

私が「日本では海藻は食べるものだ」と伝えると、「おいおい、うちの家の屋根を食わないでくれよ」と言われました(笑)。この家などは、もはやサステナブルを超えているといってもいいかもしれませんね。

サステナブルな家の本質は、そこに住む人の心や生き方にある

―― 世界の家から見えてくる、サステナブルな暮らしとはどのようなものでしょうか?

まず自然に逆らうことなく、「自然とうまくやっていく」ということではないでしょうか。私の自宅の庭には、息子が子どもの頃に埋めたどんぐりが芽吹いて育った、大きなシンボルツリーが植わっています。かなり大きく育っているのですが、切らずにそのままにしています。

するとそこに虫が棲み、小鳥やハトがやって来て巣を作ります。そしてまた木が伸びる。そういった自然のサイクルの中に自分という存在も入っていると意識することが、サステナブルな暮らしの第一歩だと思います。

たとえば伸びた木が大きくなりすぎて邪魔だとか、手入れがたいへんだとかいった理由で切ってしまうのは簡単なことですが、そうすると自然のサイクルを分断することになってしまいます。

サステナブルとは「持続可能」な状態のことで、つまりは分断ではなく「つながり」です。このつながりが大切なのです。先ほどお話ししたアフリカの「土の家」の村はずれには、長老たちが住む隠居小屋があり、時間になると子どもたちが食事を運んでいきます。

そして食事の間、子どもたちはおじいさんの話す昔話に耳を傾けます。そうやって、ずっと自然とともに生きてきた村の物語が次の世代へと伝えられ、つながっているのです。

サステナブルな家自体は目に見える形あるものですが、そこで暮らす一方で、目に見えない「つながり」を敬い、その大切さを後世に伝えていくことは、サステナブルな生き方、暮らし方においてとても大切なことだと、この例は教えてくれます。

人はみんな、心の中にサステナビリティを持っている

―― 小松さんが、世界の家の写真を通して伝えたいことは何でしょうか?

家の本質は、器である建築物にあるのではなく、そこに住む人の心や生き方にあると思っています。私が世界で出合ったサステナブルな家に暮らす人々も、土地によって住まいや暮らしはさまざまですが、根底で大切にしているものは共通しているように感じました。

自分を大切にし、他者を認め、その土地に愛着を持ち、自然の世界を意識する。そんなあたりまえと思えることを大事にしながら生きていけば、どこででもサステナブルな生き方はできると思います。

人はみんな、心の中にサステナビリティを持っています。都会に暮らす人も含めて。ただ、効率至上主義がはびこる現代生活の中で忘れてしまっているだけではないでしょうか。

それを呼び起こす意味でも、私はこれからも世界の家を撮り続け、人々に発信していきたいと考えています。未来を担うのは子どもたちです。子どもたちの好奇心を刺激する多様でユニークな住まいや暮らしの姿を、写真を通して伝えることで、サステナブルに生きるヒントのようなものを感じ取ってもらえたらうれしいですね。

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