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SMART ECO-TOWNS サステナブルな街 ピエモンテ州(イタリア)

ピエモンテ州クネオ県ブラは、スローフード運動発祥の地。ワインの名産地でもあり、郷土料理も豊富。街中では、ハーブを効かせたサルシッチャ(粗挽き豚肉のソーセージ)を生で食べることができる。

街

サステナブルな街 特集

スローフードの聖地で見る、食と文化のつなぎかた【後編】

前編:スローフードの聖地で見る、食と文化のつなぎかた【前編】

ピエモンテ州(イタリア)

2017.03.01

スローフードの研究機関「食科学大学」で学ぶ食と文化の多様性

スローフード運動の高まりは、ついに研究機関も立ち上げました。ブラ郊外の小さな街、ポッレンツォに、イタリア政府公認の食科学大学(Università degli Studi di Scienze Gastronomiche)があります。世界初の食科学を専門とした大学は、2004年の設立以来、12年間で2100人の食のスペシャリストを輩出しました。

最新の公表データによると、卒業生の85%がすぐに就職し、大学に残ってシェフや専門的な研究を志す人が4%、すぐに働かずに一年後に仕事に就く人が7%という高い就職率を誇っています。

現在、世界85か国からの学生たちが、生物多様性や分子学、文化人類学、醸造学、地理学、経済学などを学びながら食のシーンで活躍する基礎を築いています。また、合計3年間の基礎課程在学中に授業の一環として世界中をまわり、生産者を訪問して食体験を重ねていくことも大きな特徴のひとつ。研修先は全世界68か所にものぼります。

多く実地研修をする理由は、体験を学術的に落とし込み、研究していくことで多様な文脈から食を見ることができる専門家を育てるため。食と文化の多様性を学ぶ学生たちが暮らすブラは、一見イタリアの田舎町のようですが、レストランを覗けば、小さな街と大きな世界の食文化をつなぐ息づかいが感じられるでしょう。

食科学大学の校舎。ホテル「アルベルゴ・デッラジェンティア(Albergo dell’Agenzia)」やレストラン「グイド(Guido)」も敷地内に併設している。

食科学大学内にあるワイン銀行(La banca del Vino)には、イタリアの主要ワインメーカーがワインを預けており、その数は10万本以上。ワインの試飲、購入が可能。

学食では、3〜5ユーロの気軽な価格で素材まで確かなスローフードランチが食べられる。

美食家が訪れるアグリツーリズモの宿

ブラから車で1時間もしない距離にある、銘醸ワインのバローロやバルバレスコで知られるランゲ・ロエロ・モンフェッラート地域のブドウ畑の風景は、イタリア50番目の世界遺産になっています。

ワインのほかにも白トリュフやポルチーニ、チーズ、ピエモンテ牛など名物をいえば数知れません。豊穣な丘陵地帯のなかにある農家と宿が一緒になった宿泊施設、アグリツーリズモ(都市に住む人たちが農村で休暇を過ごす旅のスタイル)の宿は、秋には日本を含めた世界中からガストロノモ(美食家)が訪れます。

人気のアグリツーリズモの宿「ルペストル」の主人、ジョルジョ・チリオさんはこういいます。

「ワインなど農産物ができるような豊かな環境を代々子孫につないでいくために、これまで引き継いできたものを大切に育てて伝えて行かなければいけない。以前、地域の街に大きな工場が進出したとき、一時的に雇用は増えたけれど、工場が移転した途端に荒廃してしまった。

現在はユネスコに食文化の背景が認められたおかげで、風景を楽しみにくる人やワインなどの特産品を目当てに訪れる人も多くなった。サステナブルな農業経営によって、若い人たちも働く場所ができた。この土地は自立していける場所だ」。

「ルペストル」オーナーのジョルジョ・チリオ氏。日本には2000年以来25回以上も訪れ、ピエモンテワインの啓蒙や料理教室などを行なっている。

現在は、24歳になる息子、アンリコさんと一緒に宿を営むジョルジョさん。オンシーズンはブドウ畑や宿の仕事で忙しく過ごし、オフシーズンになると自分たちで作ったワインや加工食品を持って、海外で料理教室を開くなど伝統食を広める活動を行っています。ジョルジョさんはスローフード協会に加盟はしていませんが、昔ながらの土地の伝統食を守ることが結果的にサステナブルなのだと宿を通して伝統食の啓蒙活動をしていました。

また、敷地内には大きな太陽光発電パネルがあり、1時間につき1600kwを作り出し、電力会社に買い取ってもらっています。セントラルヒーティングの熱源には、地元の特産品のヘーゼルナッツの殻を利用。食の背景に思いをめぐらすことと、食を中心としたサステナブルな暮らしが、ピエモンテのカネッリという丘陵地帯で実現していました。

レストランの暖炉やセントラルヒーティングの熱源となるのは、特産品ヘーゼルナッツの殻。工場からいらなくなったものをもらって再利用している。

収穫期にジャムや野菜をこしらえて瓶詰めにしておきます。希望により、販売することも。

参考文献

ホームページ
  • ピエモンテ州ホームページ 観光統計データ2015
  • 食科学大学ホームページ
  • La Grandaホームページ
  • 立命館大学ホームページ 社会システム研究 紀要「食科学の誕生」
書籍
  • 『麗しの郷ピエモンテ 北イタリア 未知なる王国へ』山岸みすず 井川直子(昭文社)
  • 『スローフードの奇跡 おいしい、きれい、ただしい』カルロ・ペトリーニ(三修社)
  • 『スローフードな人生! イタリアの食卓から始まる』島村菜津(新潮社)
  • 『なぜイタリアの村は美しく元気なのか 市民のスロー志向に応えた農村の選択』宗田好史(学芸出版社)

文章:朝比奈千鶴 写真: Karin.Vettorel

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