Special Interview スペシャルインタビュー サステナブルな人 UN Women日本事務所 所長 石川 雅恵さん

ニューヨークの国連本部で開催されたアンステレオタイプアライアンスグローバルメンバーサミット(2019年)
写真提供:UN Women(国連女性機関)日本事務所

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サステナブルな人 スペシャルインタビュー

アンステレオタイプとは?
UN Women日本事務所の所長石川雅恵さんにリモート取材しました
~「女性だから」「男性だから」にとらわれない新しいジェンダー観を手に入れる~

2020.09.30

メディアや広告のチカラを生かし、ジェンダーにおける有害な固定観念の撤廃を目指す「アンスレテオタイプアライアンス」の日本支部が2020年5月15日に設立されました。イニシアチブをとるのは国連女性機関UN Women(ユーエヌ・ウィメン)。日本事務所の所長を務める石川雅恵さんに、アライアンスの意義やこれからのジェンダー平等との向き合い方についてお話を伺いました。

石川雅恵 さん

UN Women日本事務所 所長。
関西学院大学社会学部卒。オレゴン大学国際学部学士。
神戸大学大学院国際協力研究科法学修士。

約20年間国連に勤めたのち、ニューヨークにて日本政府国連代表部専門調査員として女性の人権に関わる事案を担当。国連児童基金本部コンサルタント、国連人口基金広報渉外局資金調達部などを経て現職。

アンステレオタイプアライアンスとは?

多くの方に浸透しているステレオタイプ(固定観念)の撤廃を目的とする「アンステレオタイプアライアンス(The Unstereotype Alliance)」は2017年、フランスのカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルにおいて発足しました。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのために活動する国連機関のUN Womenが主導し、賛同企業と共にグローバル活動を展開しています。また、各国の課題に即した対応の必要性からブラジル、トルコ、南アフリカ、イギリスで支部が設立。世界的に重要性が高まっています。

2019年開催されたアンステレオタイプアライアンスグローバルメンバーサミットの様子
写真提供:UN Women(国連女性機関)日本事務所

アンステレオタイプアライアンスでは、「男性はこうあるべき、女性はこうあるべき」という固定観念が個人の行動を狭め、実現したいことを妨げていると考えています。

「SDGs5番のジェンダー平等を実現するための障壁の一つが、人々が持つステレオタイプです。しかし、長年にわたって無意識のうちに刷り込まれてきたステレオタイプを打破することは困難を極めます。立ちはだかる障壁を乗り越えるための一つの方法として着目したのが広告です。」

人々の思考や価値観を刺激し、行動を喚起する広告の影響力をうまく活用することで、人々の「ステレオタイプ」に変化を与えるという指針が立てられました。

世界で第3位という大規模な広告市場を持つ日本でも、日本アドバタイザ-ズ協会、日本経済新聞社の協力を経て設立が実現。2020年8月時点で民間企業8社が参加の意思を示しています。

2020年5月15日、日本経済新聞社と日経BPが開催したライブ配信イベント「日経 ウーマンエンパワーメントプロジェクト『ジェンダーギャップ会議』~ジェンダー平等は企業の経営戦略だ~」において、アンステレオタイプアライアンス日本支部の設立が発表された
写真提供:UN Women(国連女性機関)日本事務所

広告のステレオタイプを打破するブレイクスルーポイント「3つのP」

アンステレオタイプアライアンスでは、広告表現を見つめるための原則「3つのP」を定めています。

1)Presence(プレゼンス:存在)

どのような人物が登場しているか。男性、女性を含め、多様な人々が含まれていることが望ましい。

Geena Davis Institute on Gender in MediaとJ.Walter Thompsonの調査によると、現状では男性は女性の4倍画面に映される時間が長く、7倍話す量が多いとされている。また、男性のみに特化した広告は25%を占め女性のみに特化した広告の5%を大幅に上回っている。

2)Perspective(パースペクティブ:視点)

誰の視点からストーリーが語られているのか。偏りのない視点で取り上げられるようにする。

3)Personaily(パーソナリティ:個性)

登場人物に深みがあるか。人物を外見だけでなく、人格や主体性を持つ存在として多面的に描く。

次に、世界で評価されている、ポジティブなジェンダーイメージをもたらすCMの一例を紹介します。

◯ Nissan surprises Saudi women after the country overturns ban on female drivers
NISSAN #SheDrives

世界で唯一女性の自動車運転が禁じられていたサウジアラビアで、2018年に運転が認められた。初めて車を運転する女性たちをもっとも身近にいる男性がサポートする。

◯ Always(P&G )#GirlsCan

幼い頃、自由に描いていた夢に、大人になるにつれ、ステレオタイプな女性像に収まるよう無意識に制限をかけていた。

「誤解を招かないように申し上げますと、アンステレオタイプアライアンスは炎上する広告を作らないためのネガティブチェックをしているわけではありません。ポジティブで深みのある広告を検討するための視点として、3つのPを示しているのです。」

炎上のリスクと隣り合わせにあると思われがちな広告も、はっとするような気づきを与えたり、新たな可能性の扉を開く人々の原動力となり得るチカラを持っています。

日本人の慎重さがジェンダー平等実現への加速を鈍らせる?

日本社会のジェンダー課題を知る一つのデータとして、2019年12月に世界経済フォーラム(WEF、本部スイス・ジュネーブ)が発表した「ジェンダー・ギャップ指数2020」があります。0が完全不平等、1が完全平等を示す指標で、日本の指数は0.652。153カ国中121位、G7(※1)の中で最下位という結果が問題視されました。

G7:Group of Seven の略。フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7つの主要な先進国のこと。

日本のスコアは教育・健康に比べて、経済・政治分野の数値が著しく低い
画像:男女共同参画局

一方で女性活躍推進に優れた企業に贈られる「なでしこ銘柄(経済産業省)」や「えるぼし認定(厚生労働省)」、子育てサポート企業に認定する「くるみん認定(厚生労働省)」など、日本政府によって女性にフォーカスされた制度も作られています。

さらに世界的なSDGs指数である「ブルームバーグ男女平等指数(GEI)」には、大和ハウス工業を含む日本企業11社が選出されています。

それでも結果に反映されづらいのは、日本人の特性があげられるのではないかと石川さんは分析します。

「日本も取り組んではいるのですが、世界に比べてスピードが遅いんです。私も含めて日本人は怒られることに敏感で、石橋を叩いて渡るというスピリットがあまりにも強く根付いているのではないかと思います。UN Womenが推奨する女性のエンパワーメント原則(※2)への署名を企業にご提案するときも“うちは7原則のうち3つくらいしか手をつけてないから恐れ多い、できないかもしれない”と謙遜して結局参加せずに終わってしまう。日本人の堅実な国民性は、世界各国から信頼を得る良い面でもありますが、裏を返すと慎重になりすぎて進みが遅い。世界各国が加速しながら取り組む中で、私たちはいつまでも同じ場所で足踏みをしている状態です。」

女性のエンパワーメント原則(WEPs):女性の活躍推進へ積極的に取り組む企業の行動原則。経営者自らがWEPsに署名することにより、女性が社会的にその力を発揮できるような労働環境・社会環境を整備することへの強い意思を国内外に示すことができる。

思い切って踏み込めない背景にステレオタイプの存在がないか、改めて検討することも必要です。

「例えば、女性の管理職が少ないという背景に、女性にこの仕事を任せられるのかという不安があるのだとしたら、その不安こそが女性の能力を軽んじるステレオタイプであることに私たちは気づかなければなりません。性別にかかわらず、誰しも初めから完璧な管理職になれるわけではないのですから。また、新型コロナウイルス感染症拡大による在宅勤務状況下で改めて女性が家事、育児、看護、介護など家庭での無償労働を担っていることが注目されました。フルタイムで勤務できないため、結果として生涯稼げるお金は男性と同等ではなくなり、差を生むことへと繋がります。」

ステレオタイプによる役割分担、セクシャルハラスメントや痴漢などがあまりにも日常的で諦念を持って見逃されがちなことも、もとをたどれば女性の命や価値、存在が蔑視されているが故に起きていること。力を持つ者が女性を支配下に置こうとする思考は、国によっては女性の体と心を支配する性器切除になり、人生までをも操作しようとする児童婚として社会に表れています。
起きている出来事は違っても、ステレオタイプを抱いているという根底の問題は同じだと石川さんは警鐘を鳴らします。

アンステレオタイプに個人も企業もまずは意思表示をすること。完璧を求めず、見切り発車でスタートを切る

先にあげた認定制度のほか、女性が働きやすい環境づくりを企業に求める法律「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」や「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」など日本政府による女性活躍推進の政策が施行されています。

「日本は今、第2フェーズに移っています。女性に対する取り組みは充実し始めているので、これからは男性の意識に働きかけることが必要です。よくある光景ですが、ワークライフバランスがテーマの講演会などで、家庭と仕事を両立させる工夫を語るのはほとんどが女性。男性が会社勤めをしながら子育てをするという話があってもいいはずですよね。」

ジェンダー平等や女性の活躍を進めるには、女性だけでなく男性を「男らしさ」のステレオタイプから解放することも重要だと石川さんは話します。自由に生きる女性のロールモデルが必要とされるように「男らしい」というイメージに縛られない男性のロールモデルを描くことも社会にとっては大きな価値です。

UN Womanが主導するムーブメント『He For She』は、ジェンダー平等を男性にとって身近なものにする一つの活動例です。あらゆるジェンダーの人々が共に力を合わせてビジネスを築き、家族を育て、地域社会から得た利益を還元しようとする活動で、個人でも団体でも署名によってジェンダー平等に対する意思表明をすることができます。

日本におけるアンステレオタイプアライアンスの活動は、1年間のパイロットプロジェクト。勉強会、オンライン研修、アンステレオタイプグローバルメンバー企業との情報交換、広告コンペティションなどを通してジェンダーに基づくステレオタイプの撤廃を目指し、メディアと広告業界にステレオタイプのない表現を作ることを推進します。

アンステレオタイプアライアンス日本支部が2020年5月15日に活動開始
写真提供:UN Women(国連女性機関)日本事務所

「必ずしも100点満点でなくていいんです。できていないところに正直に、75点でも勢いで走り始める。誰かに突っ込まれることを恐れて黙るのではなく、たとえ今達成していなくとも、“だからこそ是正していくんだ”と社会へ宣言することで、企業のカルチャーが変わっていきます。率先して自社の立ち位置を表明する企業は働き手にとって心強いもので、そんな企業で働きたいという方も増えるかもしれません。企業と働き手、双方にとって意義のある行動だと思います。」

個々人が、心の奥底に眠るステレオタイプに光をあてることで、当たり前だと思い込んでいたことに疑問を持ったり、他の選択肢が見えてきたりするかもしれません。一人ひとりが自分や自分の大切な人を縛るステレオタイプに気づき、解放されたその先に、誰もが自分として自由に生きられるジェンダー平等社会への道筋が見えてきます。

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