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CSR(環境・社会)ニュースリリース一覧

Vol.11 世界最古の摩天楼都市(イエメン・サナア旧市街)

Vol.11 山岳アラビアの塔状住宅(イエメン・サナア旧市街)

石と日干しレンガを積み上げた塔状の家

中東アラビア半島にあるイエメン共和国。首都のサナアは、標高2,300mの高原地帯にある盆地に位置しています。年間平均気温は25℃、冬の早朝には氷点下まで気温が下がることもあります。湿度は一年中低く、年間降水量は500mm以下(東京の約3分の1)です。雨季は3~5月と8月~9月。雨は降ったとしても、午後に数時間だけです。

サナア旧市街と呼ばれる地域は、約1km四方の古い市壁に取り囲まれています。面積は137ha。約6,400棟の住宅があり、約5万人が暮らしています。サナアの人が住む家の多くは、縦長の直方体のかたちをした塔状の建物です。建物の高さは、3階建てから9階建てまでさまざまです。

塔状住宅がサナア旧市街で発達した理由は、3つあります。まずは、人口増加で土地を有効に活用するために住居を高層化したこと。そして第2の理由が防衛です。かつてイエメンでは、部族間の争いがしばしば起こりました。そのため外敵の侵入を防ぎやすい、塔状の家にしたのです。第3の理由は、女性を他人の視線から守るため。アラブ・イスラム世界では、女性の姿を家族以外の男性の目にさらすことは避けなければなりません。外部からのぞきにくい塔状の家は、サナアの女性にとって安心して暮らせる空間なのです。

塔状住宅の内部

道路に面した家の入口である重い木の扉には、独特のかたちをした鉄製のノッカーがついています。ノッカーがたたかれると、住人が上の階にあるのぞき窓から来訪者を確認します。上階にあるロープを引っ張ると、1階玄関につながっているかんぬきが外れ、重い木の扉が押し開けられる仕組みで、いわばインターホンの原型といえるような仕組みです。来客は少しかがんで家の中に入ります。

1階は人の居住空間ではなく、もともとはヤギ、ヒツジ、ウシなどの家畜小屋でした。また、防衛上の理由から、1階にはほとんど窓がありません。

入口のノッカー

入口のノッカー

中2階には穀物などの貯蔵庫があり、その上の階からが居住空間になります。3階は外敵に襲われたときに防衛できるよう、通常男性が暮らす場所になっています。ここには「ディーワーン」と呼ばれる広い部屋が設けられ、応接間や家族の集まる空間として使用されます。床に絨毯を敷く生活スタイルであるため、部屋にはイスやベッドなどの家具はありません。夜は床の上にマットレスなどを敷いて、毛布にくるまって寝ます。また、各階の中央はホール状の廊下となっており、これをはさんで南側は冬の部屋、北側は夏の部屋として使い分けする家もあります。

女性が使うのぞき窓(上)と伝統的な冷蔵庫(下)

女性が使うのぞき窓(上)と伝統的な冷蔵庫(下)

4階には女性が暮らす空間があり、台所や寝室に分かれています。来客用ののぞき窓もたいていこの階に設けられます。風通しの良い家の北側には台所があり、のぞき窓と同じようなかたちをした伝統的な「冷蔵庫」に、肉や野菜をぶら下げて保存しています。また女性は寝室でまとまって寝ています。来客の男性が入らないように、階段のあるホールは扉で仕切られています。最上階は、下の階よりもひとまわり小さく、「マフラージ」と呼ばれる来客用の展望室になっています。ここではイエメンの男性の社交に欠かせないカートパーティ※が行われます。家の大きさにもよりますが、低層階が家畜小屋や穀物貯蔵庫で、最上階がマフラージ、その間が居住階というのが基本で、1軒あたり10~30人程度の家族が暮らしています。

※カートは常緑樹の葉。気の合う者同士が集まり、カートを噛み、口の中にためながら話をしたり、水タバコを吸ったりしてくつろぐ時間をカートパーティーといいます。

最上階のマフラージ

最上階のマフラージ

カートパーティの様子

カートパーティの様子

塔状住宅の素材と構造

上層階と低層階で素材の違う建築

イエメンには森林が少なく、木材を手に入れるのがむずかしいため、家の素材には山から切り出した石や日干しレンガを用いています。塔状住宅の低層部は重い大きな石を積んで作られています。

低階層には窓はほとんどなく、明かり取りや換気のために小さく最小限の数だけ設けられています。窓がほとんどないことで外敵の侵入を防ぎ、サナアの砂埃も避けることができます。

また、大きな窓をつけると壁の面積が減り、上の階の重さを支えきれません。

上階層は反対に、重量の軽い日干しレンガを積み上げて作られています。日干しレンガは水に弱いため、上下階のつなぎ目や窓枠などには防水効果のある漆喰(しっくい:消石灰を主成分とした塗壁材)を塗り、雨や生活用水から壁を守ります。部屋の内壁に隙間なく塗られるため、防寒・防暑にも優れ、乾燥した気候で昼夜の温度差が激しいサナアの気候にも適しています。

外壁にも漆喰が塗られているので、白い漆喰模様を窓枠や上下階のつなぎ目に見ることができます。

トイレを起点とするエコシステム

塔状住宅には各階にトイレが設けられています。通常道路に面した建物の隅にあり、どの階も同じ位置に配置され、上から下までたて穴が通っています。屎尿(しにょう)は床から壁にあいた穴を通って直接外に排出されます。サナアは乾燥しているので、そのままにしていても問題はありません。また、糞便はたて穴を通って1階の肥だめに落ちます。ここには家畜の糞も集められています。肥だめには小さな穴があいていて、そこから定期的にかき出し人がやってきて、糞便を回収していきます。

マクシャマ(菜園)

マクシャマ(菜園)

回収された糞便は「ハンマーム」という公衆浴場の燃料として使用され、その燃えかすはサナア旧市街にいくつもある菜園の肥料になります。人びとは菜園で育った野菜を食べ、ふたたび排泄します。このように閉ざされたサナアの市壁内で、完全に循環するエコシステムが成立していました。

サナア旧市街のエコシステム

住宅から出るごみ処理問題を街全体の仕組みに取り入れ、「人類が住み続けているもっとも古くからの都市」といわれるサナア旧市街。数百年前の先祖から受け継いだ伝統的な石積みの上に今の世代が新たな居住空間を建て増したレンガの高層住宅が、近年発展した他の都市とは違うユニークな街並みを形成しています。

POINT

  • トイレを起点としたエコロジカルなシステムが公衆浴場や菜園含めた街の循環をつくっているのね。
  • 日の当たる南側を冬の部屋として暖かく、北側を夏の部屋として涼しく過ごしているんだね。
  • 家の中にはイスラム女性のプライバシーを守る構造や工夫があるのね。

参考文献:佐藤寛「世界最古の摩天楼都市(イエメン人|防御の住まいに生きる人びと|イエメン)
佐藤浩司編『住まいにつどう』学芸出版社、1999年、137-156頁


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